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私の体験談

さよならマイカル

マイカル元社長 四方修氏へのインタビューより(財部)

「なぜ倒産したのですか」

単刀直入に訪ねた時に、四方修元社長が真っ先に上げた理由は過剰債務問題でした。

「あまりにも債務が大きすぎた。1兆2千億円と言う債務の額はマイカルの年間売上にそうとうします。毎年の支払い利息はマイカルの経常利益と同じです。つまりフローの収益では債務をどうすることもできない」

しかし、私にすればおおいなる疑問が湧いてきます。

「だったら、なぜ社長を引き受けたのですか。過剰債務であることは分かっていた事ではないですか?」

すると四方氏はこういいました。

「だから私は断ったんだ」

彼は宇都宮前社長からの社長就任要請を二度、断っています。元警察官僚ということで民間企業の経営とは無縁であるかのような印象をもたれがちですが、経営者としての手腕は実証済みといっても良く、マイカルの関連会社であるジャパン・メンテナンス(ビルの清掃やメンテナンスを行う会社)の株を公開させ、東証一部上場企業にまで発展させたのは、まさに四方氏にとって、マイカルの社長就任は渦中の栗をひろう以外の何ものでもありませんでした。ではいったいなぜ、社長就任を受けたのでしょうか。

四方氏の言葉を借りれば「引き受け手が誰ひとりいなかったから」ということになります。前社長からの三度目の就任要請を受ける際、四方氏は具体的な条件をひとつ提示しています。

「役員全員の意思である事を示してほしい」

それに応えて、四方氏のもとにやってきた役員のなかの一人が、四方社長解任動議を起こした山下常務(当時)でした。資金繰りに破綻したマイカルをどのように法的整理するかについて、四方氏と他の役員との考えは完全に対立しました。会社更生法によって再生を図ろうとした四方氏は、役員が一掃される事で新機軸を打ち出しやすくなる事と、それを条件にメインバンクである第一勧銀から600億円にのぼる融資をとりつけることまでしていたと言います。

それだけあれば、取引先の7割にあたる500万円以下の納入業者すべてに支払いをし、なおかつ関連会社の資金繰りをつけて連鎖倒産を防ぐこともできるところまで視野に入れての計画でした。彼はそれを8月に決意していたといいます。ところが、この計画を知った一部の役員たちの中には、会社更生法などとんでもないという反発が広がっていきました。

役員総退陣です。

自己保身だけを考えた、山下常務以下の役員たちは、突如、四方氏と第一勧銀出身の役員を解任、山下氏を新社長に推挙の上、民事再生法による法的整理を決めてしまったのです。これには、メインバンクの第一勧銀をはじめ銀行団が猛反発。マイカルが再起できる可能性はきわめて低くなりました。おそらく外資系金融機関いがいは、現時点ではマイカルへの資金支援をしてくれる可能性はないといってもいいというのが現状です。

四方氏がつくづく言っていました。それは「マイカルにはマネジメントというものが存在していなかった。」ということです。時代は当の昔に変わってしまったのに、自分たちこそ「流通のプロ」であって、ど素人のあんたが口をだすなといわんばかりの対応をマイカルの役員たちはとっていたようだが、四方氏にしてみれば「長く生きている分だけ、消費者としては俺の方がプロだ」といって、守旧派をけん制したそうです。

大量仕入れ、大量販売。全国一律に同じモノを販売することでコストを下げて、低価格を実現するというチェーンストア理論は、もはや完全に時代から取り残されました。贅沢三昧の浪費を続ける日本では、安くまずいモノなど見向きもされません。

少々価格が高くても美味しい物をかうのが今の消費者です。趣味趣向の多様化は、北海道と沖縄で同じ商品を平気で並べているチェーンストアの間抜けぶりを象徴します。地方ごとに、地域ごとに、趣味趣向は変わるし、味覚も違います。それを無視したマイカルの品揃えはデタラメせんばんで、マイカルのパートの女性たちは、仕事が終わると、マイカルではなく、他店で買い物をしていたほどです。四方氏はこうしたパートの声を各店舗運営にいかしながら独自の店作りを各店の店長たちにせまるといったことまでしながら、売上のアップをはかり、それなりの成果をおさめつつある中で、資金繰りに破綻をきたして絶命をよぎなくされました。

それにしても、四方氏の話を聞けば聞くほど、日本の流通業は死んでいます。過剰債務と20世紀型チェーンストアモデルへの執着(変化への抵抗)は、業界全てに共通する事だとかれは断言しています。

過剰債務の軽減と、過去のビジネスモデルとの決別。これなしには、企業の再生はありえないということです。